2014年センター試験第7問
1980年代の終わり頃、フランス各地で生じた子羊の死は、80年以上前に絶滅した動物の復活を示すものだった。その動物とはオオカミである。オオカミが生息しているということで、動物と人間の共存という難しい問題が再び持ち上がっている。
駆除されたり狩猟で殺されたりして、オオカミは20世紀初めにフランスの地から姿を消した。1990年代初めに目撃されたオオカミは、アルプス山脈を経てフランスに入ってきた。川を越え、フランスとイタリア・スイスを隔てる山中を移動したのである。というのも、オオカミは長い距離を移動することができる動物だからである。
オオカミがフランスに戻ってきたということは、主に農村や山地の荒廃に起因するもので、羊を飼っている牧場主の懸念を引き起こすものである。牧場主は羊が頻繁に襲われることに対応はできないので、解決策を探している。牧場の人員を増やしたり、家畜を守るよう特別に訓練された犬を導入したりすることを計画している牧場主がいる一方で、オオカミを怖れさせて牧場から遠ざけるより、オオカミを駆除してしまおうという露骨な解決策を計画している牧場主もいる。
しかし、中世から伝えられ、物語に表れる否定的なイメージにもかかわらず、オオカミは人食いでもなく無益な動物でもない。それというのも、オオカミは一方で増えすぎた動物を補食することで森林に良い影響を与えているし、また他方ではオオカミは主に弱い動物(病気や傷を負ったり、年老いたりした動物)を襲うことで、その動物種に対しても良い影響を与えているのだ。従って、この「森の医者」が戻ってくることは、自然からの贈り物と言ってもいいのである。
要するに、問題なのはオオカミの復活に対して是非を言い合うことではなく、オオカミと共存する方策を見出すことなのである。つまり、オオカミを駆除するのではなく、牧畜をしている場所に入ることができないということを、オオカミに判らせれば十分なのである。ヨーロッパではすでに多くの村がオオカミとの共存を可能にするための簡素な解決策を見出しているし、またオオカミの復活を観光に活かそうという村も現れている。
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