2020年 第7問
   1920年代初頭、個別のブースで自動で写真を撮れるスピード写真は大成功を収め、カメラマンがいなくても写真を撮ることができるようになった。写真付き身分証明書が導入されたのもこの頃である。身分証明として写真を必要とする行政手続きが増えるにつれて、この書類の使用はより広まった(学生証、パスポートなど)。
   かつてフランス人は、買いたい品物を店員に頼まなければならなかった。1945年以降、フランス人は店頭に並んでいる商品を自分で手に取るようになった。スピード写真は、客と店員とのやりとりを避けがちなこうした新しい消費習慣に対応するもので、そうした相互のやりとりを完全になくせるし、さらに24時間利用できる。毎日、何千人もの通行人が、人通りの多い場所(駅、地下鉄の駅、デパート)に設置されたこのブースに立ち寄っている。
   スピード写真は公共の場にありながら、カーテンに隔てられた鏡の前に座れる私的な場所であり、隠れたまま外の音を聞くことができるのである。また、カメラマンではなく機械に向かってポーズをとるので、恥ずかしさが消え、一人でもグループでも、楽しく笑顔でいられる。こうした利点のおかげで、スピード写真は100年を超えて在り続けるのだ。
   作家や芸術家もまた、スピード写真を子供の頃の楽しみを再発見するゲームとして使える可能性に魅せられ、スピード写真の成功に貢献した。彼らはまた、その想像の領域におけるにスピード写真の力に感銘を受けた。映画『顔たち、ところどころ(Visages, Villages)』(2017年)の作者たちは、スピード写真のブースを搭載したトラックでフランス各地の道を走破した。各地で地元の人々に写真を撮ってもらい、拡大したポートレートを村にある壁面に掲示した。この場合、スピード写真の機能には大きな変化があり、もはや実用的な点、つまり個人を特定するために使われるのではなく、人々の個性を際立たせるために使われているのである。