2-1 (12月30日) |
寝るのに2階に上がっていくときの、私のただ一つのなぐさめは、ベッドに入るとママがキスしにきてくれるということだった。しかし、そのおやすみの挨拶はほんのわずかしか続かず、ママはすぐに階下に降りてしまうので、ママが階段を上がってくる音が聞こえて、麦藁を編み込んだ小さな紐のついている青いモスリンの庭着が二重扉の廊下を通る際にたてる衣ずれの音がする時は、私にとっては胸が詰まるような瞬間なのだった。それは次の瞬間、ママが私から離れて階下に降りていってしまう瞬間を告げていた。だから、そんなにも愛していたこのおやすみの挨拶が、できるだけ遅くやってきて、ママがまだやって来ない猶予の時間が長引くようにと願うようになった。時々、ママがキスしてドアを開けて出て行こうとする時、私はママを呼んで「もう一度キスして」と言いたかったのだが、ママがすぐに嫌な顔をすることが私には判っていた・・・ |
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出典はマルセル・プルーストの『失われた時を求めて』(Marcel Proust, À la recherche du temps perdu)から第1部「スワン家のほうへ」(Du côté de chez Swan-1913)。全7部という長大な小説の最初の部分、主人公が幼少期を回想する場面である。 ◇プルーストについてもっと知りたいなら、 → 日本語版 Wikipedia → フランス語版 Wikipédia ◇『失われた時を求めて』についてもっと知りたいなら、 → 日本語版 Wikipedia → フランス語版 Wikipédia |
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