2-38 (2月16日) |
ある夜、酒場「ラパン・アジル」を出て仲間とぶらぶら歩き、サクレ・クール寺院の前で立ち止まってパリを眺めたことを思い出す。その頃、街の灯りは乏しく、駅や大通りしか見分けられなかった。みんなちょっと黙っていたが、仲間の一人、長髪の詩人がセーヌ川の方を指さした。 「俺は有名になったら、あそこに住むぞ。サン・ルイ島だ。セーヌ川の腕の中でひとり夢をみるために!」と彼は大声で言った。 誰も彼からその場所を取り上げようとはしなかったが、彼に続いてめいめいが自分の場所を選び出した。ある者は友達と落ち合うためにモンパルナスを望み、ある小説家の卵は郊外の生活を送るためにベルヴィルにすると言い、またある画家はブローニュの森で絵を描くからオトゥイユがいいと言った。ただしかし、大部分の者がモンマルトルを離れないと約束した。それは私の密かな願いでもあった。しかし私は目立とうと思い、誰もあえて主張しなかった場所を指し示した。 「僕はシャンゼリゼにするよ!」 それは冗談に過ぎなかったが、神はその冗談を真に受けてしまい、ついには私の願いをかなえたのだった。今、私はシャンゼリゼにいる。20年以上前からシャンゼリゼに住んでいるのだ。しかし、シャンゼリゼの贅沢さは一度も私の心をつかんだことはなく、私は常に自分がよそ者だと感じている。シャンゼリゼではみな気取った態度を取りすぎるし、金の話ばかりである。私はモンマルトルで過ごした気取らない頃が懐かしい。そこでは皆がただ大胆にパリを分かち合っていたのだ。 |
|
→ 問題文に戻る |