2-7  (2月4日)
   ダングラーとルヌーは全く人気のない車両に乗り込んだ。
   「座席は56番と57番ですね。客は私たちだけのようです。静かなのはとってもいいですね。窓側と通路側、どちらがいいですか?」とダングラーが訊いた。
   「あぁ、そんなことはどっちでもいいですよ」
   「窓側をどうぞ。お休みになるにはその方がいいでしょう」
   「ありがとう、とても疲れてるんですよ」
   ルヌーは座席に深々と座ると、いつまでも欠伸をしていた。
   「そうやって私を寂しい孤独の中に放っておくんですね」とダングラーは言った。
   「でも、それは・・」
   「さあさあ、よく判ってますよ。あなたは規則的な生活を送っていると説明してくれたけど、それがとても嬉しかったんです。私はと言えば、もう歳なのでだんだん眠りにくくなってきてるんですよ。眠ろうとしてもダメなんです。さあ、切符を渡してください。検札の時に車掌に見せますから。あなたを起こさないようにね」
  1. wagon:後続の voitureと共に鉄道の「車両」。ただし鉄道専門用語では wagonは貨車のみをさし, 客車は voitureという。
  2. n'en finissait plus de bâiller:n'en pas finir de+不定詞「なかなか…し終えない,いつまでも…する」
  3. vous m'abandonnez à ma triste solitude:abandonnerは「任せる,ゆだねる」の意味で、この台詞はDanglarが冗談めかして言っている。
  4. constata:constater「確認する」で、ここでは相手に念を押すような口調を表す。
  5. l'âge venant:主節の主語と分詞の主語が異なる絶対分詞節で「年齢が来る→年齢とともに」といった意味。

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